映画「みつあみの神様」
板津匡覧監督インタビューOctober 2, 2017

板津監督がアニメーターになったきっかけ、アニメを作りたいと思ったきっかけは?

もともと子供の頃からアニメーションが好きで、絵を描くことが好きだったので自然とアニメーションに触れていたのが大きかったですね。また、学校が苦手だったので家で絵ばかり描いており、いずれは絵の道に進めればと思っていたところ、アニメーションの専門学校に行かせてもらえることになり、アニメーターの道に進みました。

子供の頃に好きだったアニメは?

宮崎さん(宮崎駿監督)の作品は小さい頃からずっと観ていました。あとは子供の頃だと「AKIRA」とか、ちょうど劇場アニメもビデオ作品のアニメもたくさん作られていた頃でした。何でも観ていましたが、宮崎さんの作品が一番好きでしたね。

初めて観たジブリの作品は?

「となりのトトロ」や「風の谷のナウシカ」をテレビで見たのが最初だと思います。

今まで一緒に働いていたアニメーターで尊敬している方はいらっしゃいますか?

とても影響を受けたのは井上俊之さん。今回、「百日紅~Miss HOKUSAI~」や「みつあみの神様」で原画を手伝っていただきました。日本でトップの技術を持っていらっしゃる方で、仕事の仕方も絵の描き方も何から何まで影響を受けています。
あとは「電脳コイル」という作品でご一緒させていただいた本田雄さんと、「パプリカ」の作画監督をされている安藤雅司さんの影響はとても強いかなと思っています。

たくさんの名監督とお仕事をされて、学んだことなどがあれば教えてください。

それぞれ作り方がちょっとずつ違うのが面白いですね。宮崎さん(宮崎駿監督)と今さん(今敏監督)はわりと似たタイプかなと思っています。自分の絵を中心にものを作っていく。特に宮崎さんは自分の実体感覚というものがとても強烈に画面に出る人です。その感覚に自分も入り込んでいかないと追いつかないのが面白いですね。だから宮崎さんのそばにいると、自分の体も宮崎さんの体感につられて動いちゃうのがとても面白いです。
今さんの場合はもうちょっと論理的というか、言葉で説明しながら作っていくという感覚が強いです。どちらも自分の絵を中心に作っていく人達ですね。
原さん(原恵一監督)はもともとアニメーターでも絵描きでもない人で、絵コンテが一番強力な人です。原画に対しての注文はそれほど多くないのですが、絵コンテになるとお芝居のニュアンスやキャラクター、画面の情感が強烈に刻まれます。
それぞれの監督が表現したいものや、絵のアプローチの仕方が違うことを見られたのは、いろんな監督と仕事ができてよかったと思っています。

一緒に仕事をされた方との強烈なエピソードや思い出深いものはありますか?

宮崎さん(宮崎駿監督)はテンションの高い話し方で、僕もそれにつられますね。周りの人達を置き去りにして、二人で延々と喋ってる状態になってしまうのがすごい楽しいなと(笑)。これは絵描き同士だからか分からないですが、体感を共有する感じが宮崎さんはとても面白い。宮崎さんの体感がこっちの体にも入ってくるみたいな感覚があるのかな。大したエピソードじゃないですね(笑)。

板津匡覧監督インタビュー

現在テレビシリーズ「ボールルームへようこそ」で監督をされています。監督としてのやりがいや苦労などあれば教えてください。

今まではずっと絵を描いてきて、それなりにやり方もわかってきたかなと思っていましたが、監督をやるとシナリオだとか音響だとか絵じゃない部分も考える立場になりました。自分が作業をするだけではないので、イメージの伝え方に一番苦労しています。それは面白いところでもあり、勉強しているところでもありますかね。
「ボールルームへようこそ」は、伝統的な社交ダンスとは違う競技ダンスの話です。そんなに世の中になじみのあるものではないし、自分達も知らなかったので、それについて調べたり経験したりしたことが一番の苦労ですね。競技会に行ったり、社交ダンスの教室に行って実際にやってみたりしました。週に一回くらい、半年ほどやっていましたね。
自分の場合は体感がわからないと描けないところがあるし、絵を描くときに自分でやってみるというのはアニメーションにとってはとても基本的なことかなと思います。

とても優しい方というのが板津監督の印象なのですが、現場では厳しいですか?

(笑)厳しくはないと思いますが、わからないです。スタッフに聞かないと。
自分でやったらこれくらいまでいけるなと思うときはありますけど、それはあんまり意味がないですね。手を出さないといけない状況なら出しますけど、基本的にはその場ごとに責任者がいるので、その人達の仕事だと思っています。そこに自分の今までやってきたやり方をあまり押さないようには気をつけています。自分のやり方を押してしまうと、その人達がいる意味が無くなってしまいます。みんなの良い仕事が作品に出ればいいなとしか思っていないので。

いままで関わってきた作品で、思い入れのあるキャラクターはいますか?

「百日紅~Miss HOKUSAI~」はキャラクターデザインをさせていただきました。もともと杉浦日向子さんの原作の絵はありますけど、わりと原さん(原恵一監督)の意向でアニメ用にリライトしているところが大きいです。
特にお栄(主人公)ですかね。原作だと美人ではないことがもう少し強調されているんですけど、アニメの映画だと主人公として中心に立つ人がそれなりに美しく見えてほしいというのが原さんの意向でした。僕もそうだろうと思いつつ原作のニュアンスもほしいなと思い、造形は美人なんだけれど表現の仕方とか表情の作り方は、かわいげが出すぎないようしました。

板津匡覧監督インタビュー

アニメ作りで大切にしていることとや、ポリシーはありますか?

ポリシーあるかなあ。(笑)
アニメーターとして自分の体感を大事にしています。自分の体感を絵におこし、それがアニメーションとして動くというところが自分にとってはアニメーションの魅力でした。人と仕事をするときも、人がどう感じているかを絵にできるといいなと思っています。スタッフの考え方がフィルムに反映されればいいと思います。体感や考え方が絵に現れるようにしたいです。

ただきれいと言っても、何がきれいと思うかはその人それぞれです。映画の中のキャラクターが見たきれいな景色は、ただのきれいな景色を描くのではなく、その景色を見た人がどう感じた景色なのかを描くのが大事だと思っているので。そこが一番スタッフと共有したい部分かなと思っています。

2017年、日本でアニメーションが誕生して100年ですが、監督がアニメを作り始めて20年、アニメの作り方や現場に変化はありましたか?

作り方はそうですね・・・、一番大きなものはデジタル化だったと思います。分業化も進んできた。アニメーション業界が豊かになったというのはあるのですけど。一人が担当する部分がちょっとずつ小さくなってきているような気はします。その分だけ全体を見る仕事をする人達の責任が重くなってきているのが自分はあまり好ましくないと思っています。スタッフがこうしたいっていうものが積み重なっていかないと映像に深みが加算されていかないのです。
分業化がどんどん細かくなっていくとその人達が担当する部分が、本当に部分だけになっていって、シーンをこうしたいという発想で考えられるアニメーター達がどんどん減っていく、これはたぶんアニメーターだけじゃなくて、撮影にしろ、背景にしろ、全部そうです。部分でしか考えられなくなるから結局演出家や監督の責任というか管理能力が求められるようになってしまって、本来映像作品にあるべきイマジネーションであるとか個人の意思みたいなものが出づらくなっているんじゃないかと思っています。
映像そのもののクオリティは少しずつ上がって、技術の進歩もあるのですが、この人はこう思ったんだとか、こう感じたんだと思うものに出会うことがだんだん少なくなってきているような気はしています。

技術が高まるほうがいいんですけど、その技術とイメージとを両立させるような作り方ってなかなか・・・。こんな景気の悪い話はね・・・もっと景気のいい話をしたほうがよかったかもしれませんね(笑)。

「百日紅~Miss HOKUSAI~」の見どころ

原さん(原恵一監督)の演出や原作の良さがつまっています。
作画監督として、絵に関して話をすると・・・舞台は江戸時代なのですが、わたしも含め今の日本人は普段着物を着ていないので着物を着た人がどんな生活をしていたかわかりません。そこで昔の浮世絵を見たり、着物を着て生活していた人達の古い日本映画をよく見たりして研究しました。映画の面白さもですが、そういう絵的なところも観ていただければと思います。

LA-AFF 2017 ラインナップ


Miss Hokusai

百日紅~Miss HOKUSAI~

「みつあみの神様」の見どころ

京マチ子さんの絵はとてもふんわりとした優しいタッチです。その絵の再現というのを重視しました。また、その絵だからこそ、酷な世界や残酷さがより強烈に表現されています。
その原作のニュアンスを崩さないように作ったので、ストーリーとともに絵も楽しんでいただければ嬉しいです。

LA-AFF 2017 ラインナップ


Pigtails

みつあみの神様

プロフィール

板津 匡覧(いたづ・よしみ)1980年、岐阜県生まれ。18歳でアニメ業界に入る。スタジオぎゃろっぷを経て、マッドハウス等でアニメーターとして活躍。「妄想代理人」(2004年)、「パプリカ」(2006年)、「風立ちぬ」(2013年)に原画として参加。「妄想代理人」では作画監督、「電脳コイル」(2008年)では総作画監督を務めた他、原恵一監督の「百日紅~Miss HOKUSAI~」(2015年)で初めて劇場長編のキャラクターデザインと作画監督を務めた。「みつあみの神様」は初監督作品であり、第49回ワールドフェスト国際映画祭にてアニメーション部門プラチナ・レミ賞受賞他、22賞受賞。2017年7月放送開始「ボールルームへようこそ」で初めて監督としてテレビシリーズに挑戦しています。

Thank you so much for coming to LA-AFF 2018!

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